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戴冠式、前夜。

トロデーン城内2階から、美しい旋律が流れてくる。
ミーティアが久々にピアノを弾いているんだ。
徐にノックすると中から声がし、扉が開かれる。

「エイト。」

「中断させちゃってゴメンね。」

優しく首を横に振るとミーティアは俺の袖を引っ張って、部屋へ入るように促す。
部屋はいつも整頓され、いい香りが漂っていた。
グランドピアノの隣に椅子を移動させ座ろうとすると、彼女がクスクスと笑い始めた。
……あ、そうか。

「ミーティアの次は、エイトですね。」

「そうだね。」

互いに顔を見合わせ、笑い合う。

過去を思い出す。
サヴェッラ大聖堂での結婚式前夜。
当時、本心では望まぬ婚約者との結婚を控え、
悩んでいたミーティアは、俺を呼び出しピアノの前に居た……。
だが今は、俺が王位継承の戴冠式を控え、緊張し、ミーティアが傍にいる形に。

__あの時とは、まったく逆だ。

苦笑すると、立ち上がる。

「エイト?
 ……。」

徐に近付くと、彼女の肩を抱き寄せた。
驚いて半開きになった唇に、口付けする……。
しばらくして身を離すと、彼女の頬が紅潮している。

「俺が王になると決心したのは、ミーティアが王女だからじゃないよ。
 俺にとって、トロデーンそのものが家族なんだ。
 だから、気にしないで。」

微笑みかけると、瞳を潤ませミーティアが胸に飛び込んできた。
腕の中に抱き締めると、背中に手を回してくる。

サザンビーク国のエルトリオ皇太子と、竜神族の娘・ウィニアが、
許されぬ恋に落ち、俺が産まれた。
その後、竜神の里から追放されて、トロデーン城でトロデ王と、ミーティアに出会う。
他の人々は、数奇な運命だというだろう……。

だが、誤解しないで欲しい。

俺は決して不幸では無かった。
寧ろ、幸せだった。
様々な小さい出来事が重なって今が在るなら、
それでいいじゃないか……と、俺は感じている。
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DQ8『小説』CONTENTS