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2月14日当日。
トロデーン城内では、何故か男達が皆、ソワソワしている。

「エイト隊長はいいですよね〜〜。
 あんな、素敵な奥さんがいるんですから……。」

部下の近衛兵が、俺に声を掛けてきた。
心なしか、彼の元気が無い。

「ひょっとして『バレンタインデー』の話?」
「ああ、言わないで下さい……!!
 僕は、貰う宛が無いのです……。」

あちゃ〜〜、失敗。
どうも言ってはいけない事を、言ってしまったらしい……。
俺は、慌てて彼に謝る。
すると、会話を聞いていたククールが、傍(そば)へ歩み寄ってきた。

「その様子だと、なんとか理解出来たようだな。」
言って、ククールは苦笑する。

「エイト。」

ミーティアが、声を掛けてきた。
頬を染めて俺を見つめる。
手には、キレイにリボンの掛けられた包みが……!!

「料理長に、習って密かに練習してたんです。
 エイトのお口に合うかどうか、解からないですけど……。」
「ありがとう。」

包みを受け取り、その場で開けると『チョコレート』が入っている。
俺は、彼女の前で1つ摘(つか)むと、口に放り込んだ。
ん!?

__……美味しい!!?

形は失礼して、あんまりキレイでも無かったけど、味は最高だった。
「……どうですか?」
ミーティアが心配そうに、俺の顔を覗き込む。
「美味しいよ。」
微笑んで言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「良かったな〜〜♪
 エイト!!」
ククールが俺達を冷やかす。

……が。

「ククール。
 何処、行ってたのよ!!?
 探したわよ!!」

気がつけばククールの後に、
黒いオーラを漂わせながらゼシカが立っていた!!

手には、やはり『チョコ』の入った包みを抱えている。
彼は、顔面蒼白になり、ゆっくり後を振り返った。

「……やあ、ハニー……。」

そして、逃げようとするが、
『格闘スキルマスター』のゼシカにあっさり首根っこを捕まれる!!!!

「に・が・さ・な・い・わ・よ♪」

ゼシカは、可愛い顔に満面の笑みを浮かべるが、
哀れ、ククールは脅えて声が出ない……!!
俺はというと、巻き添えを恐れ、どうすることも出来ない……。

ゼシカは、強引に包みの中の『チョコ』を、ククールの口に突っ込んだ!!!!
痛恨の一撃!!!!
ククールは泡を吹いて倒れた!!!!
ククールは死んでしまった!!!!

「よっぽど、美味しかったのですね。」
ミーティアが、感心してゼシカを称讃する。

……ミーティア。その解釈、絶対間違ってる……。

俺は、ククールの不幸を同情し、嘆息して項垂れた。
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DQ8『小説』CONTENTS