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「妙だと思わぬか……?」

アクシズに聞こえるように、エビルが呟く。

静か過ぎる海。
とんとん拍子で事が運ぶ。
不審に感じたのか、アクシズも表情を固める。

「確かに、気持ち悪いくらい、すんなり事が運ぶな……。
 『死の天使』達も急に静かになった……。」

__『ロト』であるアイリを、取り戻しに来ると思っていたのだが……。

愛しいアイリが戻ってきたのは嬉しい。
エビルが正気に戻り、普段どおり接する事が出来るのも有り難い。
だが……。

……がくん!!!!

軋む音と同時に、突如、船が揺れる……!!

「な、何だ……!!?」

驚愕し、アクシズは甲板から周囲を見回すが、岩礁などは見当たらない。
海面では泡が吹いている。
……と。
凄まじい波飛沫と共に、巨大な吸盤を連ねた足が現れた……!!
その数、数十本。

「テンタクルスか……!!」

叫んでエビルが、船にしがみ付く吸盤を、片っ端から引き剥がす。
その違和感に耐えかね、テンタクルスは頭を水面に出した。
その数、2体。
足の数は多数だが、本体の数はそうでもない。

「どうしたんですの!?
 ……って、テンタクルス!!?
 久し振りですわ♪」

大揺れに揺れる船の異変に気付いた、
出口に一番近い船室にいた僧侶リオが、
甲板に出て、戦闘態勢に入っているアクシズとエビルの真ん中に立つ。
勇者アクシズは、指揮を執る。

「暢気な事言ってる場合じゃないだろ!?
 効果は駄目もとで構わないから、『ザラキ』を詠唱してくれ!!」

船は横に揺れるが、
照準を合わさねばどんな呪文効果も空振りしてしまう。
テンタクルス2体が効果範囲に入るように立ち位置を調整する。
素早く手を翳(かざ)し、リオは『ザラキ』を詠唱した。

扇状に広がる黒い光を浴びたテンタクルス達の体液が凝固し、
海面に死骸となって浮かび上がる。

戦闘が終わると、船の揺れが治まり、
アクシズとエビルとリオの3人は嘆息した。

「もちろん、こんな楽な戦闘ばっかりじゃないだろうしな……。」

船員達が、帆を立て直す作業を見とめ、
勇者アクシズは静かに呟いた。
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『DQ3』外伝CONTENTS