神竜の去った祭壇を見上げ、
勇者アクシズは皆に聞こえる程の声で呟く。

「俺達は、まだ、『神竜』に勝ってはいない……。」

だが、神竜はアクシズの心情を自分と重ね、彼に自分の望みを託した。
智天使ケルビンは、煤(すす)だらけの服裾を払いながら、
若き勇者を諭す。

「珍しいことですよ。
 神竜様は、願いを叶える事はあっても、
 助けを請い、願いを託すことはありません。
 多分、あれで良かったのだと思います。」
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次の目的は、複数有る為、優先順位を決める事となる。
無駄な行動が命取りとなるからだ。

天界。

『神竜の塔』から『ゼニスの城』に戻った勇者達は、
オルテガの提案で作戦を練る事になった。

袋から『世界地図』を取り出し、テーブルに広げると、
オルテガは『レイアムランド』の位置を指差し、
真剣な眼差しでアクシズに話しかける。

「神竜の話にあった『グランドラゴーン』の所在は、
 『レイアムランド』だと解かった。
 だが、レイアムランドは南極に位置する氷の島だ。
 『移動手段』だが、普通の船では無理だろう……。」

だが、『アリアハン』は過去『貿易大国』であったものの、
世界大戦後、国交を断ってしまって以来、造船業も廃れてしまった。

今現在、最高の造船技術を持つ国は『ポルトガ』である。
その世界最高の船のオーナーは『勇者アイリ』であり、今はココに居ない。
再び船を注文しようものなら、時間が掛かる。

頼みの不死鳥ラーミアも、今はもう、この世界に居なかった……。

一同は俯き、考え込む仕草を取る。

「それじゃあ、先ず『アイリ』を捜さないといけない……。
 彼女が捕らわれた時、呪文を封じられている可能性が有る。
 バラモス城から脱出して、徒歩で行ける一番近い町は……。」

私情を必死で押さえ、アクシズは淡々と語る……。
さすがに、その姿が痛々しく映った賢者ディートは、
代わりに彼の言葉を続けた。

「普通に考えると『テドン』ですね。
 でも、未だ廃墟ですから、居るとは思いませんけど……。
 調べる価値は有ると思います。」

「アイリさん、居るといいね……。」

スラリン(スライム)の無邪気だが、哀しげな声に一同は注目する。
円(つぶ)らな瞳を潤ませ、小さな魔物は、今にも泣き出しそうだ……。

「そうだな……。
 皆、アイリを心配してくれて、ありがとう。」

パーティ一番の年長者であり、アイリの父親であるオルテガは、
温かく微笑むと、スラリンの頭部を優しく撫でた。
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