『[ロト]の魂を、渡す気は無い様だな……。』

地上界。
『氷の洞窟』内に、グランドラゴーンの深い声が響く。
<1>
勇者『ロト』であるアイリを捕らえたまでは良かったが、
天界に対して謀反を起こした首謀者サムエルは、自らの目的を果たすまでは、
彼女をグランドラゴーンには渡さぬと言い出した。
決して表情を変えぬサムエルに、グランドラゴーンは嘆息する。

『まあ良い……。
 では、約束を変更しようではないか。
 お前達は、[神竜]と[竜の女王]の子である[卵]を連れてきている。
 それで良い……。』

首謀者の後で控えていた死の天使達は、思わず驚愕した。
グランドラゴーンは更に続ける。

『あいにくコチラには子がいない。
 [竜神の子]だが、教育を施せば、良い魔王となってくれるであろう。』

「……して、名はなんとします?」

そうと決まれば、命名の儀式である。
死の天使ミハエルは、水鏡を前にグランドラゴーンに尋ねる。
名前1つで、その者の運命が決まってしまう。
それ程まで命名の儀式は重要なものであった。

グランドラゴーンは、呪われた名を口にする。
竜神としての血を封じ込め、魔界の王とする為に……。

『汝(なんじ)の名は、[竜王]……!!』

彼が命名した瞬間、凄まじい爆音と共に、天から怒りの如く稲妻が振ってくる。
『卵』の父である『神竜』が、激しく抵抗しているのであろうか……!?
だが、神竜の抵抗空しく『竜の女王の卵』は魔界に転送され、
何も無い石畳の床だけが残る。

「……『竜王』ですか。
 確かに、『魔王』に相応しい呪われた名ですね……。」

冷たく微笑し、ミハエルが静かに言う。

『世継ぎが出来た……。
 お前達には礼を言わねばならぬな……。』

グランドラゴーンが、死の天使達に称讃の言葉を述べる。

そう……。

勇者達は、間に合わなかったのだ……。
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