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古傷が原因の熱で倒れたアイリは、 老人が用意してくれた布団に横たわり、 目を閉じたまま、肩で荒い息をしている……。 __……気付いてやれなかった……。 愛しい少女の黒髪に触れ、アクシズは自分の至らなさに唇を噛み締める。 恋人の傍から離れようとしない幼馴染に、ディートは嘆息し温かい笑顔になった。 「僕が代わりましょうか? ……て、言っても、代わる気なさそうですけどね。」 「ディート。」 「……何ですか?」 優しい問いかけに、アクシズの表情が重くなる。 「どうして、彼女ばかりが、辛い目に遭うのだろう……。 俺が代わってやれたら……と、思う事も何度もあった……。 彼女が普通の女の子だったなら……、 こんな辛い試練に出遭うこともなかったのに……。」 __こんな、古傷をつくることもなかったのに……。 ディートは、尚も自分を責める幼馴染を諭す。 「……でも、アイリさんが勇者として旅をしなければ、 一生、アクシズと出逢うことも無かったかもしれないのです……。 この世に偶然は在り得ない。 全てが必然で、全て意味のあることなんですよ。」 だから、過ぎ去った事に悔やむ必要も無いし、落ち込む必要も無い。 間違っているのがその経験で理解出来たなら、 その出来事に感謝し、次の試練に進む。 昔、ダーマ神殿に置いてあった『哲学書』の内容を思い出し、 ディートは遥か遠くを見据えた。 視線の先に、何かが見える。 __……? 先ほど自分の舌を火傷させた老人が、 釜の湯を冷ましながら、お茶を入れているではないか……!! その行動に気付いたディートは、老人に抗議した。 「『熱い』って解かってたんなら、冷ましてから、僕に下さいよ!!!!」 「見れば解かりそうなもんじゃろ?」 「見ても解からないです!!!! 熱いかどうかなんて、実際に触ってみなければ解からないです……!!!!」 「ふ〜〜〜〜〜〜。 一々、五月蝿い、賢者さんじゃのう……。」 必死のディートに対し、面倒くさそうに返事する老人。 2人の遣り取りに呆れたスラリンは、 ピョンピョン跳ねながらアクシズ達の傍に近寄る。 だが……。 彼は、その場に佇み、その光景に呆然とした。 こちらでは、 ようやく意識を回復し、上体を起こしたアイリを抱き締め、 アクシズは固く目を閉じ、動かない。 __僕、独りにされちゃった……。 恋人達の抱擁を目にしたスラリンは、大きく溜め息をついた。 『ゼニスの城』は、この上の階にある。 彼等にとってココは、丁度良い休憩所になったかもしれない……。 |
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