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司令室の一角で、アクシズはアイリに膝枕され、死んだように眠っていた。
並ぶ机が死角となり、実質2人きりの空間になってしまっている。
仲間達が気を遣って、恋人達に最後の時間を与えたのだろうか……。

アイリは、その寝顔を見つめたまま、指でそっと彼の頬に触れた。
だが、丁度『ラリホー』の効果が切れてしまったのか、彼は目を覚ましてしまう。
アイリは驚愕し、思わず手を引いた。
アクシズは頭を振って、徐に上体を起こす。

「もう大丈夫なの?」
「……ああ。
 不意打ちだったけど、よく眠れたからな……。」

そのままの体勢で、2人の視線が合う。
アクシズはアイリの肩を引き寄せ、腕の中に閉じ込める様に抱き締めた……。
武装している為、互いの鎧が擦れ合い、細やかな金属音が鳴る。
アイリは、彼の胸当てに頬を押し当てた。

「……1度でも、お前を抱いておけば良かった……。」

アクシズは、少女の耳元で、小さく囁くように呟く。
「……今だって、そうしてるじゃない?」
「……違うよ。そうじゃない……。」
彼は、何処までも純真無垢な少女の瞳を見つめ、苦笑する。
そして愛しそうに優しく微笑むと、指で優しく少女の柔らかい頬に触れた。

「泣かないのか……?」
「泣けないの……。すごく辛い筈なのに……。」
「皆がいるからか?」
「ううん……。」
抱き合って座ったままの姿勢で、2人はしばらく動かなかった。

「アイリ……。愛してる……。」

何気ない彼の言葉に、少女の瞳が揺れる。
今まで彼は、想っていても、彼女の前ではっきりと言葉にすることが無かった。

「アクシズ……。愛してるわ……。」

2人の顔が近づき、唇が重なる。
音も無く静かに求め合い、互いの唇を濡らしていく……。

__これで最後かもしれない……。

急に、どうしようもない切なさを覚え、アイリは自分の唇を彼から離す。
そして懇願するように、心から愛してやまないアクシズの瞳をじっと見つめた……。

__お願い……。もう独りになろうとしないで……。
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『DQ3』外伝CONTENTS