「最悪な事態になったな……。」
勇者オルテガの遺体を抱きかかえ、カンダタが重く呟く。

一同は俯いたまま沈黙している。
中には目に涙を溜めた者もいる。
そして、怒りに身を震わせる者も……。
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「……まさか、ここまで奴らの思い通りにさせることになろうとは……。
 俺は何の為に……。」
勇者アクシズは拳を握り締め、悔やみながら俯く。

その様子を、黙って見守っていた賢者ディートは嘆息すると、
アクシズの傍に徐に歩み寄る。
そして、彼の顔の前で手を翳した。
呪文詠唱の構えだ。

「スイマセン。
 でも、少し眠っていて下さい……。」

突然の事でアクシズは驚愕したが、睡眠呪文『ラリホー』が放たれ、
無抵抗のまま睡魔が襲い、崩れるように倒れてしまう。
エビル(バラモスエビル)が慌てて駆け寄り、彼を抱きかかえた。
ディートは、そんな幼馴染を見守っていた。
悔恨の表情で……。

__僕だって、悔しいのです……。

勇者達は、『救世主』である。
だが仲間達にとって、彼等は『犠牲者』でもある。
産声を上げた時から世界の命運を背負わされ、幼い頃から罪も無いのに命を狙われる。
どんなに正しく清く生きようとも、敵は容赦なく襲ってくる……!!
こんな理不尽な話が他にあるだろうか?

ディートは、唇を噛み締め俯いた。

ダーマ神殿次期大神官は、兄のファザードである。
彼が既に『賢者』であるのに、自分は何の為に『賢者』である必要があるのか?
アイリが『真の勇者』に選ばれたのに、アクシズは何故『勇者』に産まれたのか?
しかし、突き詰めていけば、お互い本当に似た者同士だ。
だから親友になれたのだ。

「取り敢えず、どうします?」

ディートの目の前に、丁度通りがかったサタンパピーが居る。
魔物は、勇者達の姿に一瞬驚愕したが……?
「……付いて来て下さい。」
敵である筈の自分を見ても、戦闘態勢に入らない勇者達を見て嘆息すると、
何と、一行を『地下司令室』に導いたのだった。

「何故、支援してくれたの……?」
勇者アイリが、サタンパピーに問う。
すると、彼は照れくさそうに言った。

「総司令官ブロス(バラモスブロス)様のご命令だったからです。
 勇者アイリ達が来る事があったらお助けしろと……。」
「じゃあ、ブロスは生きているのね?」
「はい。」

ホッと胸を撫で下ろし、アイリは微笑んだ。
だが、これはブロスが正常だった頃の命令である。
サタンパピーはそれ以降の彼の変貌については口に出さなかった。
いや、安心する勇者を見て、言う気が引けてしまったのだろう……。

今度はエビルが珍しく魔王軍の構成について語りだす。
「昔、バラモスから聞いた話だが、魔王軍には八魔将がいたそうだが、
 勇者オルテガと勇者サイモンに殆ど倒され、
 八叉ノ大蛇、ボストロール、サタン(デュラン)、
 そして、キング(キングヒドラ)しか残っていなかったそうだ。」

「それって4魔将でしょうが……。
 もっとも皆倒して1魔将になっちゃったけどね。
 今まで『魔王軍幹部』としか知らなかったわよ……。」
エルマが面倒くさそうに言う。

「上官がいなくなると、肩書きなど不要になるからな……。」
エビルは苦笑した。
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