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地上界。
『アリアハン』城下町。

不吉な『雪』の影響は顕著に表れ始めていた。
雪は降り積もると、大地を隠しながら、次第に厚みを増していく。

アリアハン城下の住民達は、避難の意味も含めて、一切家から出ていない。
それは、アイリの生家も同じことだった。

「ルシア。
 お茶を入れてくれんかの……。」
寒さに耐え切れないのか、アイリの祖父・ガウルが、
自分の息子の妻・ルシアに、熱い紅茶をせがむ。

「はい。
 少し、お待ち下さいね。」

丁度、自分も飲みたかったところだ。
ルシアは、苦笑するとキッチンに向かった。
湯を沸かし、食器棚からティーカップとソーサーを取ろうとする。
だが、突然、手元が狂い落としてしまった。

「大丈夫か?」

食器の割れる音を聞き、ガウルはルシアに怪我は無いかと問うと、
彼女は少々驚きながらも、大丈夫だと答えた。
そして、徐に割れた食器の破片を片付ける。

ふと、ルシアの手が止まった。


__……。


今まで感じたことの無い感覚だった。
かつて、夫・オルテガがネクロゴンド火山に落ち、
崩御されたと報告を受けた時も、
自分の娘・アイリが黙ってゾーマ討伐の旅に出て行った時も、
このような感覚にはならなかった……。

__あなた……?

ふと、オルテガのことが脳裏を過ぎる。
急に胸が締め付けられ、彼女の頬を涙が伝う。

……そう。
オルテガはこの時、本当に亡くなったのだ……。

彼女の涙はしばらく止まらなかった……。
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『DQ3』外伝CONTENTS