地上界。
厚い雪雲は、徐々に天全体を覆い始めていた。
そして、大地を白く染めていく……。
<1>
「不吉な『雲』じゃな……。」

『ダーマ神殿』の外へ出た、大神官バサラは、不自然な天を静かに見据える。
この空の影響か、今は転職希望者達も来ない。
ふと、彼が下を見ると、スライムが寒さに震えている。

「おお。よしよし。
 寒かろう。来なさい。」
大神官バサラは、スライムを抱きかかえると神殿内に戻る。

神殿の柱の影に、折り畳まれたチェス盤が目に入る。
アクシズと、ディートが幼い頃から遊んでいたものだ。
あの時は『戦略』を養う為にワザと、その玩具を与えたのだが……。
バサラは思わず苦笑する。

エビル(バラモスエビル)が最初、
幼いアクシズを連れて、ダーマ神殿に訪れた時には驚いたものだ。
だが、今となっては、自分の息子同然である。
もっともアクシズの方は、自分を『父』としては見てくれなかったが……。

「バサラ様。
 火が焚けましたので、早くこちらへ……。」
御付きの神官が、大神官を暖炉へ促す。
「うむ。
 当たるとしよう。」
彼は頷くと、寒さに震えるスライムを暖炉前に置き、
そして遠くを見つめる。

「ワシは、長年『賢者』をしてきたが、未だに何が本当の『悟り』なのか解からぬ……。
 『悟り』の内容は『賢者』一人一人によって、それぞれ異なるし、
 この世には、全ての『思考ある者の数』だけ『悟り』が存在する。
 それが普通だし、自然な事なのだよ……。
 『賢者』とて、たった1人の人間に過ぎぬ……。」

「それが、父上の『悟り』なのではないでしょうか……?
 私にはそう感じましたが……。」
大神官バサラの言葉を聞いていた、彼の長男・ファザードが意見を返す。
ファザードはディートの兄であり、次期ダーマ大神官である。
彼も弟同様『生まれながらの賢者』であった。

「ディートは、しっかりやっていると、私は信じていますよ。
 アクシズ君に会って、弟は変わりました。
 あんなに気が弱かったのに、自分から『大魔王討伐』に行くと言ったのですから。
 そして、未だに戻ってきません。」
語りながらファザードは苦笑する。
便りの無いのは良い証拠とは、昔からよく言ったもので、
ディートがココへ戻らないのも、辛くても弱音を吐いていない証拠である。

「ダーマ神殿は、今後も安泰じゃな……。」
バサラは長男を見て苦笑する。

しかし……。
地上界を襲う『雪』は、無情にも『吹雪』に変化を遂げていく……。
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