地上界『アリアハン』城下町。
人々は、大魔王の存在すら知らず、平穏な生活を送っていた……。
<1>
勇者アイリの実家。
彼女の母・ルシアは、洗濯物の入った籠を小脇に抱え、家の外へ出る。
洗濯物の嵩は少なく、干す作業も直ぐに済んでしまった。

アイリが黙って姿を消してから、数ヶ月の月日が過ぎた……。
娘の部屋から、武器・防具が消えていたことから、
それが生易しい決意などではない事は、ルシアにも理解出来る。

__こんなところまで、貴方に似るとはね……。

ルシアは思わず苦笑した。
しかし彼女は、夫・オルテガが生きていることなど知らない……。

……と、玄関前に2人の訪問者が居る。
彼女は驚愕し、身嗜みを整えると、自宅に戻ろうと急ぐ。
そのうちの1人が、彼女の姿を見つけると、帽子を脱ぎ一礼した。

「ルシア殿。
 我々の為に、少しお時間を頂けますでしょうか。」

「王様……。それに、エクル大臣まで。」
ルシアは狼狽しながらも、2人を家に招きいれた。


「そうですか……。
 あの子がそんな事に……。」
王から事情を聞き、ルシアが俯き嘆息する。
今度は、隣のエクル大臣が言葉を繋ぐ。
「孫のリオールも、同時に居なくなりまして……。
 もしや、アイリ殿とココに……と、思ったのですが、ソレも違ったようです。」

「失礼な話で申し訳ないと思っています。
 ですが何故、今更、真相を告げに参られたのでしょうか?
 もっと早く言って頂ければ……。」
静かな怒りとも取れる、ルシアの言葉に、エクル大臣は一羽の伝書鳩を差し出した。
命からがら逃げてきたのか、その鳩は傷だらけでグッタリしている。

「リオールの鳩です。
 先刻、その鳩がウチまで帰って来ましてな……。
 ですが、手紙も何も持っていなかったのです……。」
力無く項垂れて、エクル大臣は鳩を撫でた。

おそらく、アイリ達に何かがあったのだろう……。

ふと、彼女が窓の外を見ると、白いものがチラチラ降り出している。
王もそれに気がつき、開いている窓の傍に歩み寄る。
手を差し出し、受け止めるとソレは体温に溶かされ消えた……。

「これは『雪』か……?」

「そ、そんな馬鹿な……!!
 今は、夏ですよ!!?
 それに、アリアハンに『雪』が降ったことなど一度だって無い筈では……!!」

大臣は王の言葉が信じられず、自分も窓から身を乗り出し、その『雪』に触れた。
そして、彼は狼狽し、驚愕のあまり固まってしまう。
ルシアもその光景に驚きが隠せない……!!

……異常気象。

天が厚い雲で覆われ始めている……。
この世界全体に、何かが起こっているのは確かであった。
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