「アイリ。
 あたし、あんたに謝らなくてはいけないわね……。」

リムルダールへ向かう道中、盗賊エルマが勇者アイリに語りかけた。

「何故?」

アイリは不思議そうな表情で陳謝の訳を問う。
すると、彼女は苦笑して答えた。

「あたしはね。
 最初、あんたを『勇者』だと認めていなかったのよ。
 こんな小娘に何が出来るの!? ……て、感じだった。」

「そうですね。
 それなら僕だって、アイリさんに謝らないといけませんね。」

今度は賢者ディートが微笑んだ。

「僕等は初め、貴女が魔王バラモスを本当に倒すとは信じていなかった。
 アクシズやエビルは、僕等と考え方が違うみたいでしたけどね……。
 でも、僕は賢者として有るまじき行為だったと反省しています。
 父上が、どうしてアイリさんの旅に同行させたのか、今やっと解かりました。」
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賢者ディートは、一枚の1G銅貨を取り出した。
彼は銅貨を指で弾くと、ソレは宙に舞い、クルクルと回りながら再び彼の掌に戻ってきた。

「人の『理解』とは多種多様で、100人いれば100通りの考え方と受け取り方があります。
 それは、どれも微妙に違うし、極端に違う者もいる。反対意見もあるかもしれない。
 このコインにしたって、縦、横、斜め、様々な見方があるように……。
 でも、それで良いと僕は思うのです。
 全ての人々が同意見で無くても別に構わないと思うのです。」

彼は、沈黙して動かない仲間達に向かって更に言葉を続ける。

「でも、その『根本にあるものが同じ』ならば、捕らえ方が違っても、
 結果は同じなのです。
 僕等は、様々な形で『アイリ』さんに付いて来ました。
 アクシズは、貴女を愛することで。
 リオは幼い頃からの親友として。
 エルマは尊敬の意味を込めて。
 エビルは貴女の血の力を信じて。
 皆、全然違います。
 でも、それで構わないのです。
 僕はきっと……、その事を気付かせてもらう為でしょうね……。」

最後に自分の考えを言いながら、ディートは今までの無知に照れたが、
今度は、勇者アイリの方に真っ直ぐ向き直り、真剣な表情で告げた。

「でも、僕等は『大魔王ゾーマ』を倒すだけの為に、
 貴女の処へ集った訳ではないのです。
 それだけは誤解しないでくださいね。」

彼の言葉に答えるかの様に、一同は深く頷く。
アイリは驚愕した。
自分の悩みなど、仲間達に見透かされていたのである。
仲間達は、アイリの人智を超えた能力に一瞬驚愕したものの、
誰一人として距離を置いた者などいなかったのだ。
……いや。
自分で勝手に思い込んでいるだけだったのである……。

「皆……。
 本当に、ありがとう……!!」

徐々に目頭が熱くなってくる……。
アイリは、心から仲間達に感謝した。
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