アリアハン城下町。
既に夜空には星が瞬(またた)いており、
つい昨日の惨劇が嘘の様にかき消されていた。
おそらく、王が国民を不安に陥らせない為に情報を隠したのだろう。
<1>
アイリは、一人扉を開き外に出る。
手には大きなスープ鍋を抱えている。

城下を出ると、エビルが野宿の準備をしているところだった。
彼は、大型モンスター故、宿に入れない……。
エビルが、アイリの気配に気付き振り向く。

「……こんばんは。
 お腹空かない?」
彼女は微笑んで、エビルの隣に座った。

「すっかり元気になったようだな。」
「ええ。
 おかげさまでね。」
アイリはエビルに、そのままスープ鍋を渡す。
すると巨体の彼は一気にソレを飲み干してしまった。
彼女は一瞬驚愕したが、人良さそうな魔物の表情を見て微笑む。

「……貴方には謝らなくっちゃ……。
 ……謝るくらいで済まされるとは思ってないけど……。
 ごめんなさい……。」

そう言って俯(うつむ)く、もう一人の勇者。
エビルはそんな勇者を気の毒に感じていた。

……真実を知る事ばかりが、良いことではない。
真実は時に人の心を傷つけ、更に次なる試練へと導く。

「お前が悪い訳ではない……。
 だが、戦争とはそういうものだ……。
 戦争は何処までも不本意なものなのだよ。」

諭(さと)した後、エビルは遠い目をした。
アイリは、俯いて膝の上で拳を握り締めた。
そして、搾(しぼ)り出すような声で……。

「……私ね。
 本当は、こんな闘いしたくないの……。
 ただ、生まれが勇者だっただけ……。
 私だって、魔物だけが悪いとは思えない……。
 人間だって、格闘場とか見世物とかで、
 魔物の生活を脅(おびや)かしている……。
 彼らは元々自然の一部みたいなものだし……、
 今まで共存してきた……。」

「……そうだな。」

__いつから変わってしまったのだろうな……。

「アイリ。この戦争の原因は何だと思う?」

エビルの問いかけに、アイリが彼を見る。
彼は少し笑って答えた。

「それは暴君だよ。」

「暴君?」

「そうだ。
 たった一人の聞く耳を持たぬ暴君だ。」

明らかに『大魔王ゾーマ』のことを言っているらしかった。

同じ魔物の彼に、そんな言葉を出させてしまう、
その大魔王とはいかなるものなのか。

しかし、真実はエビルの口が告げている。
同族の彼らにとっても『魔王バラモス』は名君であり、
『大魔王ゾーマ』は暴君なのである。

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