アリアハン城下町。 既に夜空には星が瞬(またた)いており、 つい昨日の惨劇が嘘の様にかき消されていた。 おそらく、王が国民を不安に陥らせない為に情報を隠したのだろう。 |
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アイリは、一人扉を開き外に出る。 手には大きなスープ鍋を抱えている。 城下を出ると、エビルが野宿の準備をしているところだった。 彼は、大型モンスター故、宿に入れない……。 エビルが、アイリの気配に気付き振り向く。 「……こんばんは。 お腹空かない?」 彼女は微笑んで、エビルの隣に座った。 「すっかり元気になったようだな。」 「ええ。 おかげさまでね。」 アイリはエビルに、そのままスープ鍋を渡す。 すると巨体の彼は一気にソレを飲み干してしまった。 彼女は一瞬驚愕したが、人良さそうな魔物の表情を見て微笑む。 「……貴方には謝らなくっちゃ……。 ……謝るくらいで済まされるとは思ってないけど……。 ごめんなさい……。」 そう言って俯(うつむ)く、もう一人の勇者。 エビルはそんな勇者を気の毒に感じていた。 ……真実を知る事ばかりが、良いことではない。 真実は時に人の心を傷つけ、更に次なる試練へと導く。 「お前が悪い訳ではない……。 だが、戦争とはそういうものだ……。 戦争は何処までも不本意なものなのだよ。」 諭(さと)した後、エビルは遠い目をした。 アイリは、俯いて膝の上で拳を握り締めた。 そして、搾(しぼ)り出すような声で……。 「……私ね。 本当は、こんな闘いしたくないの……。 ただ、生まれが勇者だっただけ……。 私だって、魔物だけが悪いとは思えない……。 人間だって、格闘場とか見世物とかで、 魔物の生活を脅(おびや)かしている……。 彼らは元々自然の一部みたいなものだし……、 今まで共存してきた……。」 「……そうだな。」 __いつから変わってしまったのだろうな……。 「アイリ。この戦争の原因は何だと思う?」 エビルの問いかけに、アイリが彼を見る。 彼は少し笑って答えた。 「それは暴君だよ。」 「暴君?」 「そうだ。 たった一人の聞く耳を持たぬ暴君だ。」 明らかに『大魔王ゾーマ』のことを言っているらしかった。 同じ魔物の彼に、そんな言葉を出させてしまう、 その大魔王とはいかなるものなのか。 しかし、真実はエビルの口が告げている。 同族の彼らにとっても『魔王バラモス』は名君であり、 『大魔王ゾーマ』は暴君なのである。 |
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