<7> | ||
「アイリのお友達の方ですね。どうぞ。」 アイリの生家ではルシアが出迎えてくれた。 やはり、彼女の母親も心配しているらしく感じられた。 こんこん。 ノックするが、返事がない。 寝ているのだろうか? 仕方がないので、勝手に入ってみる。 周囲には無駄な小物など無く、少女の部屋にしては殺風景な印象を受ける。 さすがに、この時ばかりは申し訳ないと思いつつも、 ためらいがちにベッドに視線を移すと、アイリは憔悴(しょうすい)しきって眠っていた。 よく見ると涙の筋が頬にかすかに残っている。 泣き疲れたのかもしれない……。 アクシズは椅子をベッドの傍に置き、そこに座って彼女の手を両手で包んだ。 __冷たいな……。 右手でゆっくり頬に触れてみる……。 やはり冷たく弾力が感じられない。 その時、アイリの手を繋いだままの左手が、不意に握り返された。 「……アクシズ……。」 どうやら目が覚めたらしい。 アイリは身を起こし俯いた。 左手は毛布を握り締めている。 「大丈夫か……? 皆、心配して」 アクシズの言葉が遮られた。 アイリの上体がよろけて、 そのままアクシズの胸に倒れこむ格好になったからだ。 「ご、ごめんなさい……。」 アイリは身を離そうとしたが、そのまま強く抱き締める。 「……。」 「すまない……。」 「……え?」 「…守ってやれなくて……。」 アクシズはアイリの身を離し、澄んだ美しい瞳を見つめた。 とはいえ10p程までの近さに互いの顔がある。 お互いの存在を確かめあうかのように、 柔らかく、何度も、唇と唇を重ね合う。 アクシズは長い口付けを終えると同時に、 陶酔しきって力の入らなくなったアイリの上体を自分の胸に押し付けるように抱き締めた。 彼女の瞳から涙が留め止めなく溢れ、彼の上着を濡らす。 互いの言葉は無い。 どれ位時間が経っただろう。 崩れかけた少女の心が、徐々にまとまり、自我を取り戻し始める。 __そうか……。私はただ、彼の胸で泣きたかっただけなんだ……。 やがて泣き終わったアイリは彼の胸から身を離し、顔を上げた。 「……落ち着いたか?」 「……うん。」 素直に微笑んで頷く少女がいとおしくなり、 アクシズはもう一度彼女に口付けた……。 |
||
■次へ ■前へ ■『DQ3』外伝CONTENTS |