季節12のお題___[雫]

「もうすぐ雨が降りますよ。
 早めに宿へ戻った方がいい。」

灰色の雲が昼の太陽を覆い隠し、段々暗くなっていく空。
それを目にした道具屋の店主は慌てて、勇者アイリに紙袋を渡す。

たまたま立ち寄った町。
世界地図を調べれば分かるであろうが、今はそんな気になれない。
天から雫がパラパラと零れ始め、やがて本降りの雨となったからだ。
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「とうとう、降ってきちゃった。」
アイリは外路地を駆け抜け宿を目指すが間に合わず、
近場の屋根の下で雨宿りすることにした。
既に彼女の外套は雫を垂らし、雨を吸った分重みとなって、か細い肩にのしかかる。

ふとその時、小さな気配を感じ、足元に視線を移すと、
自分と同じように雨宿りをしている仔犬の姿が目に入った。

「お前も私と同じなのね……。」

コチラに気付き、顔を上げる仔犬を抱き上げ、アイリは優しい瞳で微笑んだ。
魔王バラモス討伐の為、闘い続けてきた彼女にとって、休息の時でもある。
しかし、雨は強くなるばかりで、一向に降り止まない。
馬車も通る様子がない。
仔犬を抱いたまま、アイリは深い溜め息をついた。

__私って、根っからのロマンチストよね……。

屋根から雫が落ち、本降りの雨は、複雑な線模様となって景色を遮断する。
時折跳ねる水しぶきが冷たい。
濡れたままの外套では、風邪をひく可能性がある。
仔犬を足元へ降ろすと、アイリは自分の道具袋を開け、何か無いかと探った。
すると、積み重なった道具の下に、別の紺色の外套が見つかる。

「コレ、アクシズの……。」

ゆっくり手に取り、愛しそうに頬へ当てる。
濡れた外套を脱ぎ捨て、彼から貰った外套を羽織る。
女のそれとは違い男物だからサイズも大きい。

__温かい……。

アクシズと初めて逢った日の事を思い出し、アイリは微笑んだ。
……と、不意に肩を叩かれ、後を振り返ると、
溢れんばかりの豊満な胸を薄布で隠した美少女が立っている。
彼女はアイリの顔を見た途端、残念そうに舌を出した。

「何だ。可愛い顔した男の子だと思ったけど、違うみたいね。
 お嬢さん。父さんの店の前で何やってるの?」

「え?」

驚愕したアイリは、此処には居ない恋人アクシズの外套を被ったまま、
少女の顔を見て、次に建物を見上げる。

此処はアッサラームの町。
雨宿りに使った建物は通称『ぱふぱふ娘』の父親が経営するマッサージ屋だったらしい。
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