季節12のお題___[花]

大陸のとある岬、崖下の海は穏やかでは無く、
白い高波が何度も何度も岩壁を叩きつける。
その岬の先端には花束が置かれており、強風に煽られながらも形を保っていた。
ふと、風に耳を澄ませば、音階を刻んだ演奏が聴こえてくる。
いや、違う。
この演奏は、美しい声持つ女性の歌だ……。
<1>
元々、霊感の強かった僧侶リオは、自らの両肩を抱き身震いした。
女性の声は生きている者の声ではなかったからだ。
もしかしたら、聴こえているのは自分だけかもしれない。
そう思い、岬の先端まで移動すると、花束の前まで恐る恐る進んでいく。
しゃがみこみ、花束に触れる。

「どなたですか?」

不意に声を掛けられ、リオの表情はビクリと固まった。
だが、この声は先程の歌の主ではなさそうだ。
慌てて立ち上がり、声を掛けてくれた女性の方へ向き直る。
リオは苦笑いして問う。

「あ、私、リオール・エクランブールです。
 仲間内では、『リオ』って呼ばれてます。
 この花束は、貴女が置いたんですの?」

「そうです。
 ココで人が亡くなったから……。」

__……予感的中ですわ……。

女性の返事に納得すると、僧侶リオは荒海の方へ視線を移した。
そして、自分でもあまり考えたくない事を聞く。

「身投げ……ですわね?」
「ええ……。
 とても綺麗な女性だったと聞いています。」
「ココは、何て呼ばれていますの?
 先程も歌声のようなものが……。」

言って、リオは思わず自分の口を押さえた。
強い霊感があるから聴こえているのであって、決して普通の者に分かる筈がない。
そう思って落胆しかけた時、女性から意外な言葉が返ってくる。

「それは、亡くなったオリビアさんの歌声ですね。
 あの歌声が聴こえると、必ず船乗り達に不幸があるといいます。
 それでココは『オリビアの岬』と呼ばれるようになったんです……。」

止まない荒波と、亡きオリビアの歌声が激しい演奏となって僧侶リオの耳に響く。
激しく訴えるように、時に悲しげに……。
段々堪らなくなり、耳を塞ぎかけた、その瞬間。
リオの瞳に岬の先端に佇む美しい女の姿が映った。

__あの人がオリビア……!!?

驚愕し、恐怖に目を逸らしたくなるが、身体は硬くなり逸らせない。

だが、ココに花束を手向けた女性には、オリビアの姿は見えていないらしく、
リオのただならぬ様子にオロオロとしているだけであった。
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