季節12のお題___[変化]

「本当にいいの?」

勇者アイリが、心配そうに尋ねる。
だが、彼女の仲間である女商人ミーナは、黙って首を横に振った。

スー開拓村(今は大きな町として発展している)ミーナバーグの創始者であり、
町長でもあった彼女は今。
住民達の反乱により、冷たい石の牢獄に捕らえられ、変化の無い毎日を過ごしていた。
それは、働き者であり、熱心な者には辛い日々だったかもしれない。
だがミーナ自身は勇者アイリに『イエローオーブ』の在りかを告げた後、
ココで反省すると言い出した。

ミーナの言うとおり『イエローオーブ』を手に入れた勇者達が、
名残惜しそうに町を去り、しばらくして、
お世話係になっていた若者がミーナの夕食を持って現れた。
<1>
「姐さん。ココに置いときますよ。
 今度はちゃんと食べて下さいね。」

鉄格子ギリギリの所まで器を運び、下へ置くと若者は立ち上がってミーナを見た。
彼女は俯き、膝を抱えたまま座り込んで動かない。
大きく溜め息をつくと、彼は腰に両拳を当てて苦笑する。

「あ〜〜〜。
 ミーナ姐さん、ひょっとして、燃え尽きてるんですか?」
「……五月蝿い。
 たまにはボ〜っとすんのも、ええやろ……?」
「それじゃ全然、反省してないみたいじゃないですか。」
「だから、篭ってんねん!!」

何でもない会話の遣り取りから怒りを覚え、ミーナは立ち上がる。
ソレを待っていたかのように、彼は微笑んだ。

「だったら尚更食べてくださいね、夕食。
 姐さん、少し自暴自棄になっちゃって、イライラしてるから。」

一瞬、沈黙が訪れる。
少し時間が経ち、気を取り直すと、牢獄内のミーナは鉄格子へ近付き器を取った。
既にスープは冷めていたが、スプーンを口元へ運ぶと、そのまま啜る。
懐かしい味に、表情が綻ぶ。
黙々と夕食を平らげ、落ち着くと、申し訳なさそうにミーナは若者を見る。

「……ウチ、もう潮時かもな……。」

視線を町の内部へ向け、彼女は笑顔になった。
心配そうに見つめてくる若者を他所に、思い切り笑う。
それが終わると今度は俯き、独り言のように語り始めた。

「最初は人の為に頑張ろうって思ってたんや。
 でも、結局は、その頑張りが、人を追い詰めてるだけやった。
 そして、ウチ自身も追い詰めとったんや。」

心で答えは出せた。……だが。

__でも、『イエローオーブ』の所為やない。

仲間達の所為にだけはしたくなかった。
富も信用も失ったが、勇者アイリ達を失った訳ではなかったから。

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