季節12のお題___[誕生] ランシール地方、岩山に囲まれた砂漠中央に位置する洞窟は『地球のへそ』と呼ばれ、 勇者が試練を受ける場所として人々の間で長年語り継がれてきた。 洞窟内部は複雑な迷路と魔物達によって守られており、挑戦者の知恵と勇気が試される。 勿論、試練というからには、それなりのモノが待っている。 勇者アイリは同行してくれた仲間達と離れ、独りで、この洞窟へ訪れていた。 最初は難なくこなせてきたが洞窟深くへ進むにつれ、 妙な囁き声が彼女の耳に響き始めた。 その声は次第に頭の中で大きくなり、はっきりとしてくる。 「……ひきかえせ。ひきかえせ。」 洞窟内部からの声なら多少反響して聞こえる筈だが、 その声は直接アイリの耳に入っているようである。 まるで、ありもしない苦痛に耐えるように表情を歪め、 たまらずアイリは自分の耳を塞いだ。 だが、声は容赦なく彼女の心の内を暗闇に鮮明に照らし出す。 アイリが驚愕して目を見開いたその光景は、彼女の過去そのものであった。 |
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__私は深く思い出している。いや、思い出させられている……? 今、暗闇に映っている光景は、勇者アイリの故郷、アリアハンに在る彼女の生家。 周囲には懐かしい人々の姿が見えるが、心なしか皆若い。 やがてアイリの生家から、1人の逞しい男が出てくる。 半ば興奮気味の彼は人々に向かって声高らかに告げた。 「誕生したぞ!! オルテガ様のお子様が!!」 __え、私? 光景を目にしながら、アイリは驚愕した。 試しに自分の手を光景の中に差し入れてみるが、 新しい命の結晶の誕生を喜び興奮する人々には、触れることが出来ない。 ホログラムのように映像のみが宙に浮いている。 思わず呆然となるアイリをよそに、目の前の光景は変化する。 勇者アイリの幼い姿から、父・勇者オルテガの旅立ち。 そして、彼女は6歳の頃に引き戻され、母・ルシアと共に、 アリアハン王城『謁見の間』に立たされていた。 __母さん……? 「それは、本当なのですか……?」 ルシアは悲痛な表情を浮かべ、信じられないといった様にアリアハン王に詰め寄った。 慌てて兵士達が取り乱したルシアを止めに入る。王はそれを制し、黙って首を横に振る。 「オルテガ殿と共に旅立った、我が国の兵士が伝えてくれたのだ。 その彼も、先程、息を引き取った。 気持ちは分かるが、その命を持って伝えてくれた彼の言葉を信じない訳にはいくまい。」 __父さんが……死んだ日……。 アイリは、絶望に打ちひしがれ、がくりと膝を着く母・ルシアの姿を遠目から見ていた。 次第に様々な事を思い出す。その頃の自分は6歳だった。 まだ『死』というものが分からず、父の顔すらはっきり覚えていなかった。 だが、過去の光景は鮮明で、忘れられない心の傷を、改めて思い知らされる。 そして間も無く、アイリの意識が現在に戻され『地球のへそ』内部の『声』が語りかけてくる。 「ひきかえせ。 今なら、私の力でお前の母の『次の言葉』を変えてやれるぞ?」 嘲笑うかのような声に、アイリは唇を噛んで俯いた。 |
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