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「どうした? 今なら、ひきかえせるぞ。 あそこでお前の母が『立派な勇者として育てます』と言ったから、 望まぬ『勇者』としての道を選んだのではないのか?」 『地球のへそ』内部の『声』は、尚も勇者アイリに語りかけてくる。 追い討ちをかけるように、声はアイリの心に迫ってくる。 「ひきかえせ。 アイリ。お前は自分の心に正直に生きればよいのだ。」 しかし、アイリは静かに黙ったまま首を横に振った。 彼女は『声』に反論することもなく、自分の心の内をそのまま語りだす。 「確かに、貴方の言うとおり。 私は『勇者』として生きる事をためらっていたわ……。 でも、旅の中で様々な人達に出会って、その考え方は変わったの。 皆、頑張っている。私だけが闘っている訳ではないって。」 「ひきかえせ……。」 「もう、ひきかえさないわ。 戻る必要なんて無いのだもの。」 過去の迷いが振り切れたアイリは、『声』が洞窟内に木霊するのにも構わず、 洞窟の奥へ、更に奥へと進み、最深部に眠る宝箱を開ける。 宝箱の中に入っていた『ブルーオーブ』が、勇者を待っていたかのように輝きを増す。 __だって、約束したんだもの……。 『ブルーオーブ』を手に取り、アイリは優しい表情を浮かべた。 一時、諦めていた少女らしい夢も、アクシズと出会ってから、淡い期待に変わった。 それはまだ、小さいかもしれないが、時が経つにつれ、大きく育てられていくことだろう。 __私は、もう『過去』を振り返らないって、決めたの……。 自分の中で考えを纏(まと)めながら、洞窟を出る。 砂漠地帯を通り、裏口から神殿へ入る。 「アイリ!!」 その時、神殿内でアイリを待っていた、僧侶リオと戦士クリスが、ほぼ同時に叫んだ。 駆け寄る仲間達に笑顔で返しながら、 アイリはランシールの大神官に『ブルーオーブ』を見せた。 大神官は大きく頷くとアイリに向き直り、問いかけてきた。 「自分に勇気があったかどうかは、そなたが一番分かっているであろう? いや、もう既に答えは出ているがな……。 これからも、更なる努力を忘れぬようにな。」 「はい。ありがとうございました。」 アイリは大神官に向かって跪(ひざまず)くと頭を下げた。 |
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