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「『ガイアの剣』を知っているかい?」

思い出したように問う男。
アイリ達は揃って首を横に振る。
男にとっては、心の傷をえぐるような辛さがあったが、この事は話さねばならない……。
喉奥から絞り出すような声で、彼は語り始めた。
尊敬する不遇なるサマンオサの勇者・サイモンの話を……。

「『勇者サイモン』様は、たとえ、『アリアハン』と『サマンオサ』が犬猿の仲であろうと、
 他国の戦士達と分け隔て無く交流をはかろうとした……。
 魔王討伐の為に……。
 だが、彼が『勇者オルテガ』様と一緒に闘う約束をしていたと分かったとたん、
 サマンオサ王の態度が一変した……。」

その時、本物と偽物が入れ替わったのだろうか……?
いや、今までが偽サマンオサ王の様子見だったのかもしれない。

「『ガイアの剣』は『勇者サイモン』様の宝剣で、僕はソレを知る人間だった……。」
「それが原因で、流刑になったのだな……?」
戦士クリスの問いに、彼は素直に頷いた。

そういえば、平和を取り戻す以前の、
サマンオサ城地下牢に閉じ込められていた人間の殆どが、
『ラーの鏡』の所在を知っているなどの重要な事柄を知る人物ばかりであった。
中にはブレナンのように、偽国王に直接たてついた為、公開処刑にされた者も多くいた。

勇者達は男に礼を言うと、更に彼のような者がいないか、情報収集にあたることにする。
だが後は、学者仲間にぬれぎぬを着せられたガルレオや、島の原住民、
本当に罪を犯した者だけで、たいした情報は得られなかった……。

__私と父さんだけが、闘っていたわけではなかったのね……。

船は既にルザミ島を離れ、ランシールへ向けて動いている。
別れ際に見た、どうすることも出来ない島の住民達の表情を思い出し、
アイリは大きく溜め息をついた。

彼等は、諦めながら生きている。
だが、世間から解放され、自由にも見える。

アイリは空を見上げ、流れる雲を目で追った。
雲は一見、自由に思えても、風で流され、雨を降らすと消えていく……。
そう思った途端、彼女の中で、何かが吹っ切れた。

「私も頑張らなくっちゃ!!」

両拳を握り締め、力を込める。
別に、無理に『勇者』として飾り立てる必要もない。
父・勇者オルテガや、勇者サイモンとその息子・勇者アクシズのように、
己の信ずる道を歩めば良いのだ。
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