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「じゃあ、どうして『勇者』は存在しているの?」

ホビット族・ゲイルから、過去の話を聞いていた勇者アイリは、
父・勇者オルテガの残した言葉が気になり、その訳を問う。
すると彼は優しく微笑んで答えた。

「闘うだけなら誰でも出来る。
 だけど、それだけでは駄目なのだというのが、彼の考えなのだろう。」

「……それだけでは……駄目?」

意味を図りかねてアイリは怪訝そうな顔をした。
彼女自身、小さい頃から『勇者』とは正義の為に闘うものだと教えられてきたし、
悪いのは魔王軍だとも、耳にタコが出来るほど聞かされてきた。
だが、父・勇者オルテガや、恋人である勇者アクシズは、
自分の見ていない『その先』を見ている気がする。
一度踏み込んでしまえば、決して戻れない領域を……。

__私は何処へ行こうとしているの?

ふと生じた疑問に、アイリは表情を固め、二の腕を抱き締め俯いた。
魔物達と戦闘を繰り返すたびに感じてきた、この違和感。
その感覚は優しい心を縛り、常に少女を苦しめ続けてきた……。
本当は、返り血に染まる手を見るのが怖く、
思い出す度に『勇者だから』という言葉で自分を奮い立たせてきた。

まだ若く、彷徨い続ける彼女の心を癒す為だろうか。
ゲイルは腰を上げてアイリの顔を覗き込んだ。
彼の手には、一枚の葉が握られている。

「答えは自分で見つけなさい。
 ……とはいえ、女の子には少し厳しい内容だったかな?」

言いながらゲイルはアイリの右手を取り、それを渡す。
礼を言うと、彼女は露の滴る青々とした三叉の葉を顔の前まで持ち上げ、呆然と見つめた。
ふとゲイルが、今更気付いたように周囲を見渡せば、彼女の仲間達も皆女性である。
彼は、一瞬どうしてよいか分からず、黙ってしまったが、
気を取り直すと、再びアイリに向き直り語り始めた。

「その葉は『世界樹の葉』といって、死んだ者を生き返らせる事が出来る。
 念の為言っておくが、その葉を使う事を前提で、闘ってはいけない。
 それから、次の目的地は『地球のへそ』だと言ったね?」

「はい。
 『最後の鍵』が手に入ったから、やっと神殿に入れるようになったんです。」

__……と、すれば、この子は勇者としての『試練』を受ける事になるのか……。

頼もしげに微笑むと、ゲイルはアイリに頷き返す。
すると、彼女の凛とした声を聞いてホッとしたのか、
彼の傍らで黙っていた『しゃべる猫』が、ようやく口を開いた。

「にゃ〜ん……。
 アイリさんなら、大丈夫だよ。
 立派な勇者になれるって信じているよ。」

同時に仲間達も、微笑んで頷く。

たとえ、いかなる場合も、命を奪う闘いを正当化してはならない。

この、勇者オルテガの残した言葉の意味を、噛み締めながら……。
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