季節12のお題___[天]

最果ての村、ムオル。
この地方は大陸内でも比較的寒く、
村の住民達は常に暖かい毛皮の付いたフードとコートに身を包んでいる。
かつて、この地に訪れた勇者オルテガや、彼の娘・勇者アイリも、
文化や言語の違いに戸惑っていた。
その勇者達が去って、数ヶ月後。
村一番の『いたずらっ子』であるポポタは、
いつものように友人達の輪に入り、ガキ大将の如く振舞う。
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「お母さんが、本で読んでくれたんだけどさ。
 天界には竜の神様が居て、何でも願いを叶えてくれるんだってさ。」
胸を張って言うポポタに、友人達が抗議する。

「それは、絵本の中の話だろ?
 実際に見た人なんかいないし、迷信もいいとこだよ。」
「そうよ、そうよ。
 ポカパマズさんに聴かれたら、
 きっと笑われちゃうわ!!
 恥ずかしいから、もうやめなさいよ、そんな話。」

少女の言う『ポカパマズ』とは、勇者オルテガの此処での呼び名だ。
ムオル地方の言語は、他の地域とは異なるらしい。
その勇者オルテガも、もう此処へは訪れない気がする。
ポポタは、内心寂しいものを感じ、少女に向かって反論した。

「ポカパマズさんに笑われるかどうかなんて、分からないだろ?
 アイリお姉ちゃんは信じてくれるよ。」

過去にアイリへ渡した『オルテガの兜』の事を思い出し、ポポタは瞳に涙を浮かべる。
兜を「お姉ちゃんにあげるよ。」と言って渡したのはポポタ自身だが、
彼も子供ゆえ、本当は手放したくなかったに違いない。
それに、角の生えたような兜では、アイリの美しい容姿には似合わない気もしていた。

「じゃあさ、ポポタ。
 お前、もし、竜の神様に会ったら、何て願いを叶えてもらうんだ?」

友人の1人が、拳を握り締めて俯き黙ったままのポポタに問いかける。
すると、彼は機嫌を取り直し、自分の胸をドンッと叩いて宣言した。

「当然、ポカパマズさんの子供にさせてもらうんだ。
 僕、ポカパマズさんのような立派な勇者になって、村の皆を守るんだ!!」

周囲が感心する中、騒ぎを聞いてやってきた母に、ポポタは頭を小突かれる。
怒ったように襟首を掴むと、彼女は息子を引っ張って家へ連れ戻そうとした。
そうはさせまいと、暴れるポポタに母は叱咤する。

「何、馬鹿な事を言ってるの!!?
 お前は私とお父さんの子でしょ!!」

その時ポポタの父が、苦笑しながら語りかけてくる。
「まあ、気持ちは分からないでもないが……。
 なあ、ポポタ。
 ポカパマズさんの息子になったら、美人のアイリさんをお嫁さんに出来ないぞ?」

「あ、そうか。気が付かなかった……。」

暢気な事を考え、互いに笑いあう夫と息子。
ポポタの母は思わず落胆の溜め息をつく。

だが、ポポタ達の話す『天界』と『竜の神様』は、
童話で語られるだけでなく実在していた事を、村の人々は知らない。
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