季節12のお題___[安定] 天候は比較的穏やかで、安定した空が続いている。 黒胡椒の産地として名高いバハラタの町では、 若い夫婦が共に平和な日々を暮らしていた。 夫はグプタ、妻はタニアという。 |
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「黒胡椒ですね。 アイリさん達は、命の恩人ですからタダで差し上げますよ。」 店主となったグプタが、久し振りこの地を訪れた勇者アイリに黒胡椒の袋を渡す。 かつて、グプタと恋人(今は妻)タニアが人攫い達(大盗賊カンダタ一味)にさらわれた時、 ポルトガ国の使者として黒胡椒を手に入れに来た勇者達が彼等を助け、 バハラタの平安を取り戻したからだ。 黒胡椒の一粒は黄金の一粒。 過去、ポルトガ国王は、国産の船と引き換えにしてまで黒胡椒を手に入れたものだが、 今となっては当たり前のように手に入るらしい。 「何か、黒胡椒を使ったオススメ料理とかありますか?」 黒胡椒の袋を抱え、アイリは恥ずかしそうにグプタの傍らに居るタニアに問いかける。 普段から勇者とは闘ってばかりいる職業だと思っていたから、 タニアは一瞬意外そうな顔をした。 だが、たとえ勇者とはいえ、アイリだって1人の少女だ。 優しい表情に戻ると、タニアは奥のキッチンへ彼女を案内する。 「お母さんに習った方が良かったんじゃないですか?」 エプロンの紐を背中で結びながら、タニアはアイリに話しかけた。 少女は俯き加減になり、恥ずかしそうに言葉を返す。 「私、母に幼い頃から、勇者として男の子のように育てられきたんです。 剣術の稽古や、魔法の勉強。戦い方をお城の兵隊長から学んだりしてました。 本当は女の子らしい遊びもしたかったけど、使命を果すまでは我慢しようって。」 「そうですか……。 でも、泡立て器で複雑な気分もかき混ぜましょうね。」 言って、タニアは小麦粉と熱いバター、ミルクの入ったボールを台へ置き、 アイリの右手に泡立て器を強引に持たせた。 いきなりの事で唖然となったが、 気を取り直すとアイリは持ち前の腕力で、一気にかき混ぜる。 其処へ、タニアが塩と黒胡椒を加える。 次第にとろみが増しホワイトソースが完成すると、 アイリは予め用意された野菜スープの入った鍋へ、そのままソースを流し込んだ。 煮立って、美味しそうな香りを放つ鍋に、アイリの表情が綻ぶ。 「シチューですね。母さんも得意でした。」 「アイリさんも、お上手ですよ。 いいお嫁さんになれるかも……、いえ、きっとなれますね。」 「でも、戦ってばかりだから。」 アリアハン国で過去に「お前は家事するより戦いのセンスが有る。」と、 魔法の師匠に言われた事があったのを思い出し、アイリは残念そうに俯く。 タニアは彼女の気持ちに同情すると。 「じゃあ休憩が必要ですね。 後で、一緒に河でも見に行きましょう。」 と、アイリの肩に手を置き、温かく微笑んだ。 |
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