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場所は天界へと移る。
浮遊大陸のような巨大な雲海が、白亜の『ゼニスの城』を支え、
雲を突き抜け天へ達する巨大な『神竜の塔』と、
天界から地上へと繋がる巨大な洞窟が、天地を分ける境界線となって存在していた。
勿論、神に選ばれし者しか、見ることも入ることも許されない。

天界へ通じる洞窟に、コロシアム会場がある。
下界からの挑戦者と闘う為、
エビル(バラモスエビル)とスラリン(スライム)が居るのだが、
そのような人間は滅多に現れない為、彼等は暇を持て余していた。
流石(さすが)に、不憫に思ったゼニス王は、彼等を城へ招待する。
天界の住民達と魔族は相容れぬと、エビルは嫌がったのだが、
スラリンが気を利かせ、何とか彼を、ゼニス王の待つ謁見の間へ連れて行く。
巨体ゆえ平伏さず、そっぽを向くエビルに向かって、王は朗らかに話し掛ける。

「不思議だとは、思わぬか。
 精霊神ルビスの選んだ勇者は、人間の少女だったのだ。
 また、何故……と思ったのだが、それなりに理由があったらしい。」

「それでルビス様は、今、何処へ?」

不審に感じ、エビルが問いかけると、ゼニス王は黙って首を横に振った。
地上界で精霊神の聖なる気配は感じられない。

「分からぬ。
 何も感じぬのじゃ……。
 よからぬ事が起きぬとよいのじゃが。」

王の言葉に、エビルは重い表情で項垂れる。

「魔王バラモスは身内ゆえ、我々には危害を加えないだろう。
 だが、それ以上の者が存在する。」

「エビル。お前は、何もかも知っている訳ではなかったのか?」

「知っている。
 知っているからこそアクシズは、アイリより先に奴を倒したいと言い出したのだ。
 たとえ、自分が選ばれし勇者でなくてもな……。」

精霊神ルビスが選んだ勇者がアイリならば、彼女に任せておけばよい。
天界の住民達は、誰もが皆そう思っていた。
だが、人間の心は複雑で繊細だ。
たまに天界の住民達が理解に苦しむ時がある。
この場合もそうだった。

勇者アイリが女だったというだけで、
男である勇者アクシズの心は揺らいでしまったらしい。
その事で、彼女の足を引っ張るような事態を招いてしまっても、
彼には止められないであろう。

その勇者アイリは今、バラモス城の前に立っている。
魔王バラモス討伐の使命を果たそうとする為に。
この行為がまだ、運命の通過点だという事を知らずに……。
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