<2>
「綺麗な河ですね。
 以前来たときから、ずっと思ってました。」
「バハラタの河は、聖なる河。
 ココで採れる黒胡椒は、この水を使っているから、品質も高いんです。」
勇者アイリとタニアは会話を繰り返し、家から外へ出た。

付近を流れる大きな河は、清らかな水を湛え、下流の為流れも安定している。
タニアはしばらく河を見つめた後、アイリに視線を移し、語りかける。

「この河で愛を語らうと成就するって言い伝えがあるんですよ?
 本当かどうかは別として。
 グプタが私に告白してくれたのも、この河の傍でした。
 アイリさんにも、そんな相手が出来るといいですね。」

__居る事は、居るんだけど……。

穏やかな河の流れに目を奪われながら、アイリは考える。
旅立ちの時は、自分は「男の子として生きても構わない。」と意気込んでいた。
しかし、ロマリア地方の泉で、勇者サイモンの息子・アクシズと出逢って、
淡い感情が芽生えてから、やはり自分は女なのだと思い知らされた。

「どうして、私、女の子に生まれてきちゃったのかな……。
 いっそ男の子に生まれてきたら、こんなに悩まずに済んだのに……。」

本音が声になる。
気が付き、口元を両手で覆うと、アイリは真っ赤になって狼狽する。
だが、タニアの表情は優しい。

「きっと意味があると思いますよ。
 勇者が男でなければならない理由なんて無いと思いますし。
 確かに周囲の期待と憧れが強いから、
 それ以上の目で見られるのは、お辛いでしょうね。
 でも人攫いに捕らわれた私とグプタを救ってくださったのは、アイリさんですもの。
 アイリさんは、私達にとって、かけがえのない勇者様です。」

言いながら彼女は誰かを見つけたように指で示す。
指された先を目で追うと、アイリは笑顔になった。
仲間達が、突然居なくなった勇者を捜して追ってきたらしい。

__私が勇者として、女として、生まれたのには、きっと意味がある……。

慕ってくれる仲間達は、自分を勇者だと呼ぶ。
小柄で、一見、普通の少女にしか見えない自分を、リーダーと慕い付いて来てくれる。
ふと、そう感じたとき、アイリの瞳にもう1人の勇者の姿が映った。
神出鬼没だったアクシズだが、大神官バサラの使いでこの町を訪れていたのだろう。
仲間達の後方で佇み、アイリを見つめているのが分かる。
感激に頬を紅潮させ瞳を潤ませる少女の姿に、タニアは何となく理解したらしい。
アイリの肩に手を置き、優しく微笑む。

「アイリさん。
 ちゃんと、意味があったみたいですね。」

その言葉に笑顔で頷き返すと、アイリはその方向へ駆け出した。
次のお題へ
前へ
『お題小説』CONTENTS  or  ■本編DQ3外伝『小説』CONTENTS