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「綺麗な河ですね。 以前来たときから、ずっと思ってました。」 「バハラタの河は、聖なる河。 ココで採れる黒胡椒は、この水を使っているから、品質も高いんです。」 勇者アイリとタニアは会話を繰り返し、家から外へ出た。 付近を流れる大きな河は、清らかな水を湛え、下流の為流れも安定している。 タニアはしばらく河を見つめた後、アイリに視線を移し、語りかける。 「この河で愛を語らうと成就するって言い伝えがあるんですよ? 本当かどうかは別として。 グプタが私に告白してくれたのも、この河の傍でした。 アイリさんにも、そんな相手が出来るといいですね。」 __居る事は、居るんだけど……。 穏やかな河の流れに目を奪われながら、アイリは考える。 旅立ちの時は、自分は「男の子として生きても構わない。」と意気込んでいた。 しかし、ロマリア地方の泉で、勇者サイモンの息子・アクシズと出逢って、 淡い感情が芽生えてから、やはり自分は女なのだと思い知らされた。 「どうして、私、女の子に生まれてきちゃったのかな……。 いっそ男の子に生まれてきたら、こんなに悩まずに済んだのに……。」 本音が声になる。 気が付き、口元を両手で覆うと、アイリは真っ赤になって狼狽する。 だが、タニアの表情は優しい。 「きっと意味があると思いますよ。 勇者が男でなければならない理由なんて無いと思いますし。 確かに周囲の期待と憧れが強いから、 それ以上の目で見られるのは、お辛いでしょうね。 でも人攫いに捕らわれた私とグプタを救ってくださったのは、アイリさんですもの。 アイリさんは、私達にとって、かけがえのない勇者様です。」 言いながら彼女は誰かを見つけたように指で示す。 指された先を目で追うと、アイリは笑顔になった。 仲間達が、突然居なくなった勇者を捜して追ってきたらしい。 __私が勇者として、女として、生まれたのには、きっと意味がある……。 慕ってくれる仲間達は、自分を勇者だと呼ぶ。 小柄で、一見、普通の少女にしか見えない自分を、リーダーと慕い付いて来てくれる。 ふと、そう感じたとき、アイリの瞳にもう1人の勇者の姿が映った。 神出鬼没だったアクシズだが、大神官バサラの使いでこの町を訪れていたのだろう。 仲間達の後方で佇み、アイリを見つめているのが分かる。 感激に頬を紅潮させ瞳を潤ませる少女の姿に、タニアは何となく理解したらしい。 アイリの肩に手を置き、優しく微笑む。 「アイリさん。 ちゃんと、意味があったみたいですね。」 その言葉に笑顔で頷き返すと、アイリはその方向へ駆け出した。 |
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