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「大きいですわ〜。
 勇者サイモン様って伯爵ですのね。」
サマンオサの俺の実家を見て、リオが感嘆の声を漏らす。
「リオの所だって似たようなものでしょう?」
「アイリの家もお屋敷でしたわよ♪」
「ウチは別に……。」
アイリとリオの会話を無視して、俺は長年領主不在だった館へ入った。
中と外庭は綺麗にしている。
きっと、親父と俺が帰ってくるのを待っていたのだろう。
執事ドンクが泣きながら俺の手を取って喜んでいたから……。

「アクシズ様〜!!
 ご無事で何よりでございます!!」
「今までご苦労だったな……。
 いきなりですまないが、客人がいる。
 部屋を用意してやってくれ……。」
「はっ!!」

親父の遺骨を共同墓地に埋葬し教会で弔った後、俺はしばらく自宅に滞在していた。
本当に何もかも久しぶりだ……。

そして話は現在に戻る。
俺は共同墓地へ行き、親父の墓の前にしばらく独りでいた。
アイリに呼ばれて気が付き、ついつい冷たく返事してしまう。
悪いと解かっていつつも、悪循環な気持ちに苛まれ俺自身苦しんでいるのがわかる。

でも、このままでは駄目だ。
俺はアイリの方に向き直り、彼女を見つめた。
彼女も俺を見つめ返してくる。
「ネクロゴンド火山で、『ガイアの剣』を投げ入れれば火山が反応する。
 その剣はそうやって使うものだ……。」
俺は、アイリに『ガイアの剣』の説明をした。

「ネクロゴンド火山って……。」
「勇者オルテガが崩御された所だ……。」
「!?」
「だから、親父を待ってそんな危ない所にいたのだろう……。」
アイリが思わず俯く。
勇者とは残酷な血筋だ……。
俺は常々そう感じていた。
そして今も。

俺はアイリから目線を逸らし後ろを向いた。
周囲は完全に暗くなり、夜空に星が出ている。
「もう、時も遅い……。
 部屋を用意させているから、先に戻っていろ。」

しかし……。
突然アイリが俺の背中にしがみ付いてきた。
「アイリ?」
俺が呼んでも、彼女は俺の背中に抱きついたまま離れない。
しばらくそのままの格好で俺は待った。
段々背中が熱くなっていく。

「……ごめんね……。」
泣いている……?
「どうすることも出来なかった……。
 私……勇者失格だよね……。」
「アイリ……。」
「……だって、私……何にも知らなかった……。
 父さんのこと……、貴方のこと……。」
振り向くと、今度は俺の胸に顔を埋め、抱きついてくる。
俺は彼女の背中をそのまま抱き締めた。
強く……。

「……いなくならないで……。」
消え入りそうな彼女のか弱い声。
小さな肩が震えている……。
「……貴方を愛してる……。
 ずっと……傍にいて……。」
……アイリ。
「……今だけでもいい……。
 傍にいて……。
 何処にも行かないで……。」
確かに俺の腕の中にいるのは、既に勇者ではなく、一人の少女に戻ったアイリだった。

そうだ。
彼女と約束した。
また会おうと……。

初めてロマリアの森で出会った時、彼女は俺に言ったではないか。
俺に守ってほしいと……。

アイリは俺の前では勇者ではなく、一人の少女だった。
俺だって、アイリを愛している。
初めて出会った時からずっと、アイリのことを忘れたことは無かった……。

「……傍にいる。
 俺はずっとお前の傍にいる。」
勇者としてではなく、一人の男として……。
「……アクシズ。」
再度胸に顔を埋める彼女を、優しく抱き締める。
知らず知らずのうちに、俺の頬に涙が伝う。

俺達はしばらく抱き合ったまま、動かなかった。

__どんなに離れても。必ず、最後はアイリの元に戻るよ……。

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