__俺はどうして旅を続けてきたのだろう……。

人は、時として道を見失うことがある。

挫折。別れ。そして、とある目標の喪失によって。
<1>
サマンオサの共同墓地。
俺は、またココに戻って来ていた。

__……。

喪失感と焦燥感。
俺は、この負の感情の為、既に2件のギルド依頼を断っている。
各ギルドの元締め達が俺を心配して、
今回ばかりは仕事を見合わせてくれたのだが……。

__また、俺が戻るとでも思っているのか。

「アクシズ……。」
アイリか……。
だが、俺は振り返ることが出来なかった。

「すまない……。
 独りにしてくれないか……?」

「ごめんなさい……。」
俺の棒読みの冷たい返事に、アイリは消え入りそうな声で謝る。
謝る必要ないのに。らしくないな、俺は……。

__話は少し前に遡る。

珍しくギルド元締めから直接依頼を渡された日。
アイリが再び俺の前に現れた。
話を聞くと、ずっと俺を捜していたのだという。
つまり、アイリが俺への依頼主となっていたのだった。

「こうでも、しないと、なかなか貴方を見つけられないから……。」
そう言って、彼女はどこか寂しそうな笑みを見せた。
その手には、一本の剣と包みを大事そうに抱えている。
剣の方は、俺も見覚えがあった。

「『ガイアの剣』?」
その剣の名を言うと、アイリは頷き俺に手渡す。
鞘から抜く。

__……!?

俺の血に呼応するように、刀身から炎が上がった。

「やっぱり、『貴方の剣』なのね。
 私ではそんな風にならなかった。」
アイリが納得したように呟いた。

それは俺の勇者の血筋がそうさせているのだが、
勇者といってもアイリの勇者の血筋と異なるらしい。
彼女にも、きっと相応しい剣がある筈だが、
勇者オルテガが持っている可能性だってある。

『ガイアの剣』はまだ親父の物だ。
俺は継承権を受けていない。
しかし、俺はもうひとつの『包み』に気を取られていた。

「どうして、コレを……?」
「勇者サイモンに会ったの。」
「!?」

アイリは徐に包みを俺に渡した。絶対開けてはならない……、そう言って。

「サイモンさんは、私のお父さんと一緒に闘う約束をしていたの……。
 でも、行けなかった……。
 サイモンさん、お父さんに『ガイアの剣』を渡してくれって。
 でも……。」
アイリの父親も既にこの世にいない。そして、親父も結局……。

俺は駄目だと解かっていても、包みを開けた。中身を一瞬確認したあと、包みを元に戻す。

__親父の遺骨。

「……ありがとう。」
俺は俯いたまま感謝を述べた。そして『ガイアの剣』をアイリに渡す。

「これは、あんた達が持って行ってくれ。
 そのほうが父も本望だろう……。」

俺の口から出たのは、あまりにも他人行儀な台詞。
彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、力強く頷いた。

「アクシズ……。
 ……私達と。」
「俺は一緒に行けない。」
アイリの言葉を遮るように俺は口を開いた。言葉を失って驚愕する彼女に更に続ける。
「目的が違う。
 俺は他の勇者達と同じ使命を持っていない。」

__地下世界の大魔王討伐。それが俺の使命。

しかし、言ってしまって心が痛かった。
彼女が勇者の意志とは別の、切ない瞳で俺を見つめていたから……。

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