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「だから、あっち行ってろって言っただろ!!」
「で、でも……。」
今度は何だ?
少女の掌(てのひら)が光を帯び、徐々に俺の傷を癒していく。
これは『ホイミ』か。

「お前、賢者なのか?」
攻撃呪文『ギラ』と回復呪文『ホイミ』を使える職業なんて、
そうそう限られている。

「ううん。」
少女は首を横に振った。

__まさか……。

「じゃあ、『勇者』か?」

少女の顔つきが月明かりに照らされ途端に曇る。
何だか嫌そうにも見えるが、肯定の意味ととっていいらしい。
実は、俺も勇者なんだが、段々言うのが馬鹿らしくなってきた……。
黙っとこう。

「あ、あの、さっきはゴメンナサイ……。
 それとアリガトウ。」

鈴を転がした様な可愛らしい声で謝罪と感謝を同時に受けた。
さっきは、なかなか顔を見る余裕が無かったが、今は違う。

__美少女……。

脳裏に『この一言』が直ぐ過ぎる。

見つめていると、大きな黒水晶のような、
しかし透明な澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
今まで世界を旅してきたが、こんな清らかな美しさは見たことが無かった。
俺が馬鹿ほど見惚れてしまっているのに気が付いたのか、
少女は視線を外し恥らって俯いた。

彼女の黒髪が濡れている。
そういえば、俺も全身ビショビショだった……。

俺は、道具袋から油紙を取り出し、
足元に散乱した枯れ木をかき集め火を起こした。
暖められていくと落ち着いてきたのか、
少女の顔が少しずつ朗らかになってきた。

「私、『アイリ』。『アイリ・ヴァンベルト』っていいます。貴方は?」

「『アクシズ・クライン』。」

「アクシズさん……。」

「……アクシズでいい。」

崩御した勇者と同一のアイリのラストネーム(苗字)。
やはり、オルテガの娘とは本当のことだったらしい。

「このままじゃ、生贄だ。」
「本当ですね。」
「いや、お前がだよ。」
「?」

アイリは意味を計り兼ねて怪訝そうに俺を見つめた。
どうやら、自分が絶世の美少女だという自覚がないらしい。
まあ、エルマみたいにありすぎても迷惑なんだが……。

「アクシズ……?」
「いや、どうでもいい話だ。」
本当はどうでもよくないのだが、どうも面倒くさい。

「仲間はいるのか?」
「はい。」
「何人?」
「3人。」
「女ばっかりか。」
「はい。」
何故かほっとした。いや、これもほっとしたら駄目なんだが……。
なんだか、アリアハン国王に抗議したくなってきた……。

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DQ3外伝『小説』CONTENTS