「親父、何でだよ……!!!!」

サマンオサ地方東北に位置する祠。
子供の絶叫が響く。
父は子の髪を撫で、微笑んだ。
温かく、愛しそうに……。
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「サイモン様。
 アクシズ様。」

執事ドンクの声に親子は振り返る。
10歳になったばかりのアクシズと呼ばれた子は、
父・サイモンの腕にしがみついたまま離れない。

母はアクシズを産んで直に他界し、親戚も存在せず、彼は父親だけが頼りだった。
その父が自分を出国させるという……。
幼い心には衝撃的だったのだろう。
その瞳には涙が浮いていた。

「大丈夫。
 私は戻ってくるから。」

目線を合わせる為しゃがみこみ、
息子を抱き寄せ、安心させるべく出来るだけ明るく耳元で囁く。
だが、サイモンの瞳は覚悟に満ちていた。
アクシズに悟られぬよう、静かに唇を噛み締める。

__すまない……。

心で、最愛の息子に陳謝する。
そして、彼の親友である、勇者オルテガにも……。

重く俯きながら、執事ドンクは悔恨の表情を見せた。
何故、サマンオサの勇者であるサイモンが囚われの身とならねばならなかったのか。
彼が何をしたというのか?

だが、彼は知らない。
変貌を遂げたサマンオサ王の姿を。
危機に瀕したこの国の状況を。

「ドンク。
 後は頼んだぞ。」

徐に立ち上がると、勇者は執事の肩に手を置き嘆息した。
彼の瞳にサマンオサ郊外へ潜む魔物達の姿が映る。
同時に、自分を呼ぶ息子の姿が目に入る。
意を決し、顔を上げると、くるりと踵を返し、父はサマンオサ城目指して去って行く。

勇者サイモン、享年41。
あまりにも短すぎる生涯であった。

そして、10数年の時が流れ、サマンオサだけでなく、世界に平和が訪れる。
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