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__結局、俺は何も出来なかったんだな……。

幼い日々を思い出し、アクシズは自分の掌を見つめる。
彼の手の中には、父母の形見である指輪があった。
結婚指輪の為、2つ存在するが、そのうち1つは誰に渡すのか決めている。

勇者の家系に生まれたが、勇者として教育を受けた訳ではない。
アクシズには、勇者オルテガの娘・アイリのように、他に血の繋がった家族も居ない。
彼の辛さは、幼少の頃からのもので、感覚も既に麻痺している……。
だが、その中でも救いとなる光の源は理解出来る。

「アクシズ!!
 何処行ってたの!?
 捜したんだからね……!!」

不意に呼ばれ、徐に振り返ると、アイリの姿がある。
物思いに耽る彼の姿を追って来たのだろう。
肩で息をする彼女の腕を引き寄せ、自分の胸に抱き締めた。

__そうだ。もう俺は独りじゃない。

「アクシズ?」

不思議そうにアイリが顔を上げると、
背丈の差でアクシズに見下ろされた形になっている。
視線が合う。

「アイリ。」
「何?」
「その返事の仕方。全然変わらないな。」
「そう?
 自分でもよく分からないのだけど……。」

互いに苦笑する。
恥じらいながら、聴こえる程度の声でアイリは呟いた。

「私、いい『お嫁さん』になれるかな。」

__良妻賢母ってやつか?

天を見上げ、少し考えると、アクシズは柔らかく言葉を返した。

「きっとなれる。
 でも、無茶しないようにな。」

頷くと、彼女は明るい笑みを見せた。
気が付くと、自分自身も微笑んでいるのが分かる。

__親父。俺にも守るべき人が出来たよ。

こんな時、せめて父・サイモンが生きていてくれたらと思う。
幸せな自分の姿を見せてあげられたらと思うと、
魔王軍に対し悔しさが少なからず込み上げてくるが、もう終わった事だ。
済んだ事に憤りを感じるが、彼はもう、子供では無かった。

抱擁から互いの身を離し、アクシズはアイリの手を取った。
頬を染めて恥らう彼女の指のサイズを測るように、薬指に触れる。

__お袋のサイズとピッタリだ……!!

亡き母の形見の結婚指輪と、アイリの指を見つめ、アクシズは微笑んだ。



あとがきです。
番外『勇者と仲間達』編も無事終了しました。
本編の補完ですので、予定していた話に関してはココまでになっています。
ここまで読んでくださった方、お疲れ様でした。
応援して下さった方、支えて下さった方々に、心から感謝を申し上げます。

好きな時間、自由に楽しめる小説であってくれると嬉しいです。



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