<An Introduction>
「彼等を追放したと……!?」
「そうじゃ……。」
翼を持つ王は部下の問いに、深く頷いた。

雲の上の世界、天界。
世界そのものは神話の時代から存在し、
それ故、人間達に様々な童話や伝説を与えてきた。
実際に存在する世界なのか、又は夢の世界なのか、未だ謎が多い。

天界には、王の名を取って『ゼニスの城』と名付けられた城があった。
又、城そのものが命を持ち、
『ヘルクラウド』というモンスターだったという説もある。
『ゼニスの城』には、翼を持つ人……『天空人』達が住み、
その者達は人智を超えた能力と命を兼ね備えていた。

「ゼニス王……。
 エビルを、お呼びしましょうか?」

彼等の談話を耳にした、智天使ケルビンが問う。
だが、ゼニス王は首を横に振った。

「彼は先刻、ゾーマ討伐から戻ったばかり……。
 迷惑は掛けられないであろう。」

「……ですが。」

「それに、『天界に住む魔物』達の動きがおかしい……。
 彼にも影響が出ているとも限らん……。」

王は、静かに彼方を見据え、まるで全てが見えているかのような事を言う。
事実、彼は気の遠くなるような年月を生きており、
全ての事柄を見届けてきた『神』の1人でもあった。

智天使ケルビンは、落ち着いた我が君主に困惑する。
王が堕天使候補(天界を追放されし天使)に挙げたのは『死』を司る天使達だった。
『死の天使』達は見た目は普通の天使達となんら変わらないものの、
非常に冷酷な性格をしており、魂を奪い取る存在とされている。
それ故、大魔王ゾーマの時のような事が、起こり得る可能性も懸念されている。

__何も、起こらなければいいのですが……。

智天使ケルビンは、丸眼鏡のレンズを布で拭きながら、額に汗する。
人智を超えた賢さを持つ天使故、先を予測出来てしまう……。

__いえ、何も起こらない方がおかしいですね……。

堕天使達が何処で何を企んでいるのか、彼にも理解出来ない。
そして、天の君主、ゼニス王の真意も読めない……。
ケルビンは狼狽し、頭を掻いた。
理解に苦しむというのは、『智』を司る天使の彼には、珍しい事だったのである。
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