季節12のお題___[始]

「始まりはいつも……と、いうやつじゃな。」

ダーマ神殿の外へ出て天を見上げ、大神官バサラが笑顔になる。
空は雲ひとつ無く、太陽が眩しいほど輝いていた。

__おや、アクシズではないか。

彼方に視線を移し、バサラはニヤリと口の端を上げる。
<1>
「な、何だ?」
神殿内に戻るなり、いきなり含み笑いで迎えられた為、
アクシズは狼狽せずにおれなかった。
彼は性質から『勇者』としての血筋を隠し、
『魔物ハンター』として世界各国を旅している。
大神官バサラは面白そうに笑うと、手を横に振って否定した。

「いや、違うのじゃ。
 お主の様子がちょっと、いつもと違ったのでな。
 ロマリア王妃の依頼を無事完遂させたそうじゃな。」

だいぶ前の話題を今出され、一瞬驚愕したもののアクシズは曖昧な返事と共に頷いた。
だが、彼の驚きはこれだけに留まらない。
その反応を楽しみながら、大神官バサラが問う。

「勇者オルテガ殿の娘さんに会えたか?」
「……ああ。」
「可愛かったか?」
「……。」

まるで見てきたような問いかけに、アクシズの頬が徐々に赤くなる。
「いったい何が言いたい……!?」
自分の右頬を叩いて、何とか冷静さを取り戻すと、彼は大神官に向かって抗議した。
青髭を梳きながら、大神官バサラは微笑む。

「いやいや。
 勇者は希少の存在じゃ。
 オルテガ殿が亡くなられた今、たった2人しか存在せん。」

その2人とは、勇者オルテガの娘・アイリと、勇者サイモンの息子・アクシズのことである。
アクシズの脳裏に、もう1人の勇者アイリの姿が過ぎる。
闘いやすさや男装も兼ねてだろうが艶やかな黒髪を短くし、
小柄な身体に剣を背負った美少女。
しかし……。

__アリアハン国王が、アイリを闘わせる魂胆が分からん!!

今の時点では、アイリが自らの意思で、オルテガの跡を継いで、
バラモス討伐の旅に出ているとは考えられないらしい。
面倒くさそうにアクシズは後頭部を掻く。
勇者アイリをフォローするかのように、大神官バサラは苦笑しながら語りかけた。

「勇者にも色々事情があるからのう。
 サマンオサ国があんな状態でなかったのなら……。アクシズ。
 もしかするとお主が、彼女に代わってその使命を引き受けていたかもしれんぞ?」

聞きながら、複雑な思いでアクシズは俯く。
アクシズの故郷サマンオサは、暴君に変貌を遂げた王に支配されていた。
優しかった以前のサマンオサ王を知っているだけに、彼の衝撃は大きい。
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